おいて、あとからノコノコと跟いて来るという挙動も、なんだか人を見縊《みくび》ったようでもあります。
「それ、また危ない」
 この時、疾風《はやて》のように、白刃が兵馬の頭上に飛んで来ました。それは前の覆面の二人のさむらい。兵馬が身をかわすと、慢心和尚は、うどん切りをするように、ポンポンと二人を続けさまに亀甲橋の上から、笛吹川へ落っことしてしまいました。
「オホホ」
 実に要領を得ない坊主であります。兵馬は舌を捲くばかりでありました。慢心和尚は、
「さあ、兵馬さん、これからだ。八幡村へ持って行けと言ったのは、大方こんなことが起るだろうと思ったから、奴等を出し抜いたのだがね、こうして毒を抜いておけば、あとの心配がない、これからほかの方へ持って行くのだ、さあいいかえ、兵馬さん、わしの後ろへ跟《つ》いておいで」
 何をするかと思って見ている間に、慢心和尚は、駕籠の棒へ手をかけて、それをグーッと一方を詰めて一方を長くしました。
「これ女人衆《おなごしゅ》や、少しの間、窮屈でもあろうがの、こういう場合だからぜひもないことじゃて。しっかりぶらさがっておいでよ」
と言って慢心和尚は、その棒の長くした方
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