間《かん》に打ち落すことができました。
「この坊主は拙者が引受けるから、早く駕籠を片づけろ」
 同じく松林の中から、覆面した袴《はかま》の二人の姿が現われました。これは今までのと違って両刀、それに袴、まさしく武士のはしくれであります。それと同時に、
「それ担《かつ》げ、わっしょ、わっしょ」
 無頼者《ならずもの》の一隊は、早くも駕籠を奪ってそのままに、神輿《みこし》を担ぐように大勢して舁《かつ》ぎ上げたようです。
 兵馬がハッとする時に、左の覆面が切り込みました。
 兵馬は金剛杖でそれを横に払いました。その瞬間に、右の覆面が斬り込んで来ました。兵馬は後ろに飛び退いて小手を払いました。
 兵馬に小手を打たれてその覆面は太刀《たち》を取落したその隙に、兵馬は飛び越えて駕籠を奪い返すべく走《は》せ出すと、続いて二人の覆面はやらじと追いかけます。
 兵馬は金剛杖を打ち振り打ち振り後ろの敵に備えながら、只走《ひたばし》りに駕籠を追いかけると、かなたの松原でワーッという人声であります。駕籠も人も見えないで、その人声がひときわ高く揚りました。兵馬は気が気ではありません。
 飛んで来て見ると、橋の袂の
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