岳寺の尼寺から送り出して行く先はどこだか知らねえが、ここへかかると網を張って、附いて来た坊主の手並がどのくらいのものやら、さっき向うの橋の袂《たもと》でちょっと小手調べをやらせたが、あれがこっちの本芸だと思うと大間違い。さあさあ、痛い目をしないうちに、早く渡したり、渡したり」
「憎《にっく》い奴等」
兵馬は金剛杖を握り締めると、彼等はバラバラと焚火の傍から走り出して、兵馬を取囲みました。兵馬は金剛杖を揮《ふる》って、駕籠をめがけて来る曲者《くせもの》を発矢《はっし》と打ち、つづいてかかる悪者の眉間《みけん》を突いて突き倒し、返す金剛杖で縦横に打ち払いました。
この悪者どもは、たしかこのあたりに住む博徒の群れか、或いは渡り仲間《ちゅうげん》の質《たち》のよくない者共と思われます。
兵馬は、やはりそれらを相手にすることに、さして苦しみはありませんでした。片手に打振る金剛杖で思うままに彼等を打ち倒し、突き倒すことは寧ろ面白いほどでありました。
けれども、本文通り……敵は大勢であって、これをいつまでも相手に争うていることは、兵馬の本意ではありません。兵馬は彼等を相手にしているうちに、駕
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