、老女に言いつけて、物狂わしいお君の息の根を止めさせたものと思われます。何かの薬を与えて、それによってお君は殺されていました。
 お君が再び我に帰ったのはこの尼寺へ着いた後のことで、自分は寄進物の長持の中へ入れられて、ここに送られたということもその後に庵主から聞かされました。

 慢心和尚が、宇津木兵馬を呼んで、
「お前さんに一つ頼みがある」
 兵馬は一旦この坊主から腹を立てさせられましたが、今になってみると腹も立たないのがこの坊主です。何の頼みかと思って聞いていると、
「向岳寺の尼寺から、八幡村の江曾原《えそはら》まで人を送ってもらいたい」
ということです。なおその人というのは何者であるかを兵馬に尋ねられない先に、和尚が語って聞かせるところによると、
「向岳寺の燈外庵へこのごろ泊った若い婦人がある、燈外庵の庵主は、その若い婦人を預かるには預かったけれども始末に困っている――尼寺というところは、罪を犯した女でも、一旦そこへ身を投じた以上は誰も指をさすことはできないのだが、その尼寺でもてあましている女というのは……実は、お前さんだから話すが身重《みおも》になっている――」
ということであ
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