を忘れて和尚と同じように、自分たちの頭を撫でました。
「オホホ」
と慢心和尚は面白そうに笑いました。この和尚の、オホホという笑い方は、握拳《にぎりこぶし》を口の中へ入れるのと同じように、余人に真似のできない愛嬌がある。
「あっ!」と言って自分たちの頭を撫で廻している六人というのは、そのうちの五人は昨夜の亡者であって、他の一人はその亡者の踏台となるべき義務を怠った雲水でありました。
「オホホ」
和尚は再び笑いました。六人の顔色はいよいよ土のようでありました。自分たちの円い頭を自暴《やけ》になって撫で廻しているけれど、その円さにおいて、とうてい慢心和尚に匹敵するものではありません。
そうすると和尚は、妙な手つきをはじめてしまいました。それは両手を幽霊でも出たように上の方からぶらさげて、自分の円い頭の上へ持って来て、そこでツルリと辷《すべ》らしてみるのであります。それも一度でよせばよいのに、ゆっくりゆっくりやって、二度も三度も同じことを繰返して、
「オホホ」
と笑うのであります。やりきれないのは五人の亡者と一人の踏台でありました。もうたくさんだと思っているのに、意地のよくない慢心和尚は、
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