りに殊勝な振舞と言わなければなりません。
六人は、ここで面《かお》を見合せたが、そのとき思い出したのは、道理でその頭の辷《すべ》り方が少し変であったわいというくらいのところで、別にその殊勝なる踏台の何者であるかを考えてみるまでに至らずに、寝込んでしまいました。
その翌日の定刻に、慢心和尚は講義をするといって、例の二三冊の振仮名《ふりがな》の書物を持ち出しましたけれど、その本を開かないで、円い頭をツルリと一撫でして、細い目でジロリと席を見渡しました。
「愚蔵《ぐぞう》、連十《れんじゅう》、英翁《えいおう》、甲論《こうろん》、乙伯《おつはく》、この頭をよく見てくれ」
と言い出したから、集まった雲水たちは今更のように慢心和尚の面を見ました。和尚の面も頭も、いつも見慣れている頭や面であるけれど、そう言われて見れば見るほど円いものであります。和尚はその円い頭を撫でながら、細い眼で一座の連中を見廻して、ニヤリニヤリと笑っているのであります。そうすると、
「あっ!」
席の一隅に、思わず、あっ! と叫んで面色《かおいろ》を変えたものが六人ありました。この六人は、あっ! と言って面の色を変えて、我
前へ
次へ
全185ページ中103ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング