込んでいたものと見るよりほかはないのでありましたから、五人の亡者は面《かお》を見合せて、なんとなく気味の悪い思い入れであります。
この踏台がここに寝込んでいたのなら、今の踏台は何者であったろうと、彼等は言わず語らず、その踏台を訝《いぶか》りました。
「おい愚蔵《ぐぞう》、起きろ」
と言って揺り起すと、
「うーん」
と言って眼を醒《さ》ますと共に、
「あっ、失敗《しま》った!」
と言って刎起《はねお》きました。自分が踏台となるべき義務を忘れて寝込んでしまった怠慢を、さすがに慚愧《ざんき》に堪えないものと見えて、その周章《あわ》て方は尋常ではありませんでした。しかし五人の亡者が踏台無しに帰ってみれば、やはり解《げ》せないのは同じことで、誰か自分に代って踏台になった者があると見なさなければなりません。
もとより当番であるとは言いながら、踏台となることは歓迎されていないのであります。なるべくならば踏台となる義務だけを免《まぬか》れて、亡者となる権利だけを持っていたいというのが人情であります。人の亡者株を奪ってさえやりたいという世の中に、自分から進んで踏台を引受ける者があろうとは、それはあま
前へ
次へ
全185ページ中102ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング