くる、それを七兵衛ははたから穿《は》かせてやって、身軽な扮装《いでたち》が出来上りました。
 二人が外へ首を出してみると、火の子はこの家の上を撩乱《りょうらん》と飛んでいます。

 それとはまた違ったところでその翌日、最初にあの騒ぎの口火を切った役割の市五郎が寝ているところへ見舞に来た金助、
「役割、どうでござんす、痛みますかね」
「うん」
「飛んだ御災難で」
「いまいましいやつらだ」
「役割を見損なって木戸を突くなんて、盲蛇《めくらへび》物に怖《お》じずとはこのことだ。その代り、さんざん、敵《かたき》を取って、やつらを空裸《からはだか》にしてやりましたから、それで胸を晴らしておくんなさいまし。身から出た錆《さび》とは言いながら、あいつらこそ、小屋は焼かれる衣裳道具は台なし、路頭に迷うような騒ぎでてんてこ[#「てんてこ」に傍点]舞をしていやがる、ざまア見ろ」
「狼が出て、ひどい目に遭《あ》ったてえじゃあねえか」
「狼には弱りましたね、怪我あしたやつらは大部屋でいちいち手当をしていますが、片輪者《かたわもの》がだいぶ出来上りそうで、面《かお》を噛み潰されていかにも始末にいかねえのが五六人
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