ういう趣向はどうだ、手荒いことをしなくても、女を逃さねえようにする法がある、それは裸《はだか》にして置くことだ、裸にしておけば、女は恥かしがってどこへも逃げやしねえ、そうしておいてから籤を引いた方がよかろう」
「なるほど、おれたちの仲間には智恵者が多い、裸にしておけば女は暗いところにいたがって、明るい方へ出るのをいやがる、それはいいところへ気がついた、それはいい心がけだ」
 折助はとうとう、こういう決議をしてしまいました。
「そうきまったら、ゆっくりするがいい、誰か火種を持っていねえか、一ぷくやってから仕事にかかりてえ」
 この時、一蓮寺の境内で盛んに燃えている見世物小屋の火の手を快《こころよ》げに折助どもが見返って、それから悠々仕事にかかろうと言っている途端に、
「あっ、何だ、どうしたんだ、えっ、どうしたと言うんだ、痛い!」
 暗中摸索《あんちゅうもさく》、折助どもがひっくり返り且《か》つひっくり返り、何をどうしたのか一時に混乱して騒ぎ出しました。
「やっ、狼だ、狼だ、狼が出て来やがったぞ、ソレ大変だ」
 山国にいると狼の怖るべきことを誇張して聞かされます。その狼の来襲と聞いて、さし
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