なく鎖が外《はず》されるとお君とムクとは、丸くなってこの小屋の火と煙の中から逃げ出しました。お君には、もう逃げ場がわからなかったがムクはよく知っている。犬と人とは辛《かろ》うじて火の外へ逃げ出して、
「わたしはいいから、早く親方さんや、娘たちを助けておやり、わたしはもはや大丈夫だから早く、お前、みんなの娘たちを助けて上げておくれ、悪い奴に担がれて向うの方へ連れて行かれたんだから、早く……」

         十

 女軽業の連中を引っ担いで来た折助どもは、闇に紛《まぎ》れて荒川の土手、葭《よし》や篠《しの》の生えたところまで来てしまいました。
 土手の蔭へ女軽業の連中を珠数《じゅず》つなぎにして置いて、
「さあ、大変な騒ぎになってしまった、これから先をどうするのだ、まさか焼いて喰うわけにもいくめえ、そうかと言って、ここまで持って来たものを、ほうりっぱなしにして逃げて行くと、娘たちが蚊に食われてしまう、縄を解いてやれば、さいぜんのように荒《あば》れ出して始末にいかねえ、なんとか面白い工夫はないか」
「なるほど、こうしておいて蚊に食わせてしまうのも残念なわけだ、縄を解いてやれば荒れ出す、
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