たがこい》いっぱいになった見物人の方をながめて、
「たいへん人が入っている」
 この時の前芸は駒廻しで、その次が足芸。
 紋附を着て袴を穿《は》いて襷《たすき》をかけた娘が三人出て来て、台の上へ仰向きに寝て足でいろいろの芸をやる。それから力持、相撲のように太った女、諸肌脱《もろはだぬ》ぎで和藤内《わとうない》のような風をしているその女の腹の上へ臼《うす》を載せて、その上で餅を搗《つ》いたり、その臼をまた手玉に取ったりする。
 道庵はそれを見ながら、与八を相手にあたりかまわず無茶を言っては、鮨《すし》と饅頭《まんじゅう》を山の如く取って与八に食わせ、自分も食いながら、
「今度は、例の印度人の槍使いだな」
 問題の印度人、書入《かきい》れの芸当。長い浮世に短い命、二度とふたたびは日本の土地で見られないと口上が言った。前にも後にも初めての舶来、看板でおどかし、呼込みで景気をつけ、次に中入り前に、ワザワザ時間を置いて勿体《もったい》をつけて、また改めて口上言いが出て、
「さて皆々様、これよりお待兼ねの印度人槍使いの芸当……」
 前のに尾鰭《おひれ》をつけて長々と、槍使い一代の履歴を述べ、さんざ
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