ましょうならお目にかかりまする、孫子《まごこ》に至るまでのお話の種、評判の印度人、ガンジス河の槍使いはこれでござい!」
「ははあ、これがこのごろ評判の槍使いだな」
「先生、本当だんべえかね、本当に印度からこんなエライ槍使いが来ているのかね」
「口上言いの言うことは当《あて》にならねえが、それでもこのごろは、この見世物がばかに評判だ、まるっきり嘘を言って評判を立てるわけにもゆくめえから本当かも知れねえよ」
「そうかなあ」
 与八はしきりにその印度人槍使いの大看板をながめていますから道庵が、
「与八、これがそんなに気に入ったか。それでは、こいつをひとつ見せてやろう」
「そうしておくんなさい」
「俺もこいつをひとつ見たいと思っていたのだ」
 二十四文ずつの木戸銭を払って、道庵と与八はこの小屋の中へ入りました。
 小屋の中は摺鉢《すりばち》のようになって、真中のところが興行場になっていて、見物は相撲を見ると同じように、四方から囲んで見ることになっています。
 道庵と与八とは土間の程よいところに陣取って、与八は郁太郎を卸《おろ》して膝にかかえ、物珍らしそうに、この大きな小屋がけの天井から板囲《い
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