かし、いくら気が焦《あせ》っても多勢の男に一人の女。お角の剃刀はいつか打ち落されてしまうと、忽ちに手取り足取り。
「口惜しイッ」
お角は歯噛みをしたがもはや如何《いかん》ともすることはできません。こうしてお角を取って押えた折助どもは、忽ち胴上げにして鬨《とき》の声を揚げて表の方へ担ぎ出す。高いところでそれと見た力持のおせいさん、
「あれ親方が捉《つか》まってしまった、この野郎ども、覚えていろ」
城を守ることの任務を忘れて、お角を折助どもの手から取り戻すべく、やっと声をかけて力持のおせいは、高いところから飛び下りるには飛び下りたが――これは軽業が本芸ではない力持専門であるから、ヒラリと身を跳《おど》らしてというわけにはゆきませんでした。ただお角の危急を見て夢中でドシンと飛び下りたのは、臼を転がしたと同じことだから、下へ落ちても暫く起き上ることはできないのを、それと言って大勢が寄ってたかって押える。いくら荒《あば》れても、俯向《うつむ》きに落ちたところを上から押しつぶされたのだから動きが取れないでいるうちに、演芸用の綱渡りの綱を持って来てグルグルと縛って難なくこれも生捕《いけどり》。主
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