将、副将ともに捕われた後の美人連は、惨憺《みじめ》なものであります。羊の中へ狼が乱入したように、ひとたまりもなく引っ抱えられて引っ担がれる、泣き叫ぶ、狂う。
真先に大勢に担がれて行くお角は、歯を食いしばって、
「口惜しイッ、ムクはどうしたろう、なんだってムクに気がつかなかったんだろう、早く気がついてムクの鎖さえ解いてやっておけば、こんなことはなかったんだ、こうと知ったら君ちゃんにムクを附けてやればよかったものを、今となっては仕方がない、誰かムクを助けてやって下さい、ムクの鎖を解いてやって下さい。そうすればこんな折助なんぞ幾人来たって、こんな口惜しい目に会やしないのに。ムクを、ムクを、ムクの鎖を解いてやって下さいよう」
声を限りに叫びました。
九
お君が神尾主膳に柳屋へ呼ばれて、三味線を取り直した時にこの騒ぎが起りました。
お君は三味の糸を捲く手をとめて、
「何でございましょう、あの音は」
廊下をバタバタと駈けて来た女中が、
「喧嘩でございます、あの女軽業の小屋の内へお仲間衆《ちゅうげんしゅ》が押しかけて、いま大騒ぎが持ち上ったのでございます、人死《ひとじ
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