の中に気の利いたのは、菰張《こもば》りや板囲《いたがこ》いを切りほどいて女子供をそこから逃がしたから、怪我人は大分あったけれども、見物から死人は出さないで一通りは逃がしたけれど、かわいそうに軽業をする美人連は、逃げ場を失うて、櫓《やぐら》の高みや軽業の台の上にかたまって、高みから泣き声をあげていました。
「まあどうしようねえ、お国さん、おやまさん、あれ、うちの男衆がみんな殺されちまうじゃないか、わたしたちはどうなるんでしょうねえ、親方さん、どうしましょう、助けて下さい、助けて下さい」
「そんなに騒がないで静かにしておいで、そのうちにお役人が来て鎮《しず》めて下さるから。何だね、お前たちはそんな意気地のない。日頃危ない芸当をして命の綱を渡っているくせに、もう少ししっかりおし、いよいよの時には梁《はり》を伝わっても逃げられるじゃないか」
「それでも親方さん、危ない、どうしましょうねえ、力持のおせいさん、お前は力持だからわたしを負《おぶ》って逃げて下さいな、わたしはお前さんの蔭に隠れているわ」
 平常《ふだん》は危ない芸当を平気でやっている軽業の美人連も、実地の修羅場《しゅらば》では、どうし
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