勢と一緒に袋叩きの方へ廻ろうという連中もないではないのですから。事情を聞けば、騒ぎはそんなに大きくならなかったかも知れませんが、なにしろ役割も市五郎ばかりではなく、なかには人望のある役割もあるのだから、そのいずれの役割が撲られたのか、次第によっては折助|一統《いっとう》の面《かお》にかかわると思って博奕《ばくち》半ばで飛び出すと、かねて折助と懇意にしている遊び人連中がその加勢にと飛び出して、哄《どっ》と女軽業の前へ押寄せて来ました。
こうなると、この女軽業一軒ではなく、すべての見世物小屋がパッタリと商売を止めて、女芸人や年寄は避難させ、丈夫そうなやつだけが合戦の用意をはじめます。長井兵助などは、長い刀をしきりに振り廻しました。
けれども騒動の中心になったのはやはり娘軽業。木戸も看板も滅茶滅茶《めちゃめちゃ》に叩きこわされて、木戸前で組んずほぐれつしていた群集は、ドッとばかりに場内へ乱入してしまいました。そこで、また敵味方、弥次馬もろともに、入り乱れて撲り合い噛み合いになりました。
見物の中で血の気の多いのは、頼まれもしないに弥次馬の中へ飛び込んで、喰い合い噛み合います。幸いに見物
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