と撲りました。木戸の前にいた見物も、どちらかといえば見世物側に同情があって、市五郎の大面《おおづら》を憎がっていたのですから、そうなると面白がって、
「お前方は役割を撲るなんて、飛んでもないことをする、まあ俺たちに任してくれ」
と言っては市五郎をポカポカと撲る。気の毒なのは市五郎で、ポカポカと八方から拳《こぶし》の雨を蒙って、半死半生《はんしはんしょう》の体《てい》にまで袋叩《ふくろだた》きにされてしまいました。
「覚えていやがれ、役割の市五郎に、よくも恥をかかせやがったな」
役割が撲られたという噂《うわさ》が八方へ散ると、ちょうどその辺の賭場《とば》やなにかに集まっていた多数の折助が、それを聞きつけたからソレと言って飛び出して来ました、それで事が大きくなりました。
折助連中といえども、そう役割ばかりを有難がっているものはない。なかには市五郎がテラを取ったり頭を刎《は》ねたり、自分ばかり甘い汁を吸って、こちとらにはケチで、そのくせ、いやに大物《おおもの》ぶっているのを面憎《つらにく》がっているのもあるのですから、市五郎がここで撲られたことをかえって面白がって、都合によっては自分も大
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