って、ポカリと一つ木戸番の横面《よこつら》を撲《なぐ》りつけました。
「この木偶《でく》の坊《ぼう》、ふざけた真似をしやがる」
 木戸番は飛び下りて、市五郎の横面を撲り返しました。
「この野郎、俺を見損《みそこ》なったな、俺は役割だ、城内の役割だぞ」
「役割だか薪割《まきわり》だか知らねえが、あんまりふざけた野郎だ」
 木戸番と役割とがここで組打ちを始めてしまうと、最初からこの近いところにいた口上言いや出方《でかた》や世話役の連中、これもあんまり市五郎が横柄《おうへい》で乱暴だから飛んで来て、
「おい、役割さんだというじゃないか、役割さんを撲ってはいけねえ」
 仲裁するふりをしてポカリと撲ります。
「役割さんに失礼をしては済まねえ、八公、謝罪《あやま》ってしまいな」
と言ってまたポカリ、ポカリと撲ります。
「薪割ならばいくら撲ってもいいけれど、役割さんを撲るようなことがあっては、後で申しわけがないから早く手を放したり」
と言ってはポカリ、ポカリ、ポカリと撲ります。
「役割を撲るのはよくねえ、役割を十八も撲るなんてそんなことがあるものか、せめて十三ぐらいにしておけ」
 続けざまにポカポカ
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