かんていりゅう》、それを思い切って筆太に書いた下には、鱗《うろこ》の衣裳《いしょう》を振り乱した美しい姫、大鐘と撞木と、坊主が数十人、絵具が、ベトベトとして生《なま》な色。
そのあたりは押し返されないほどの人混みの中へ、一人の身扮《みなり》卑しからぬ武士が伴《とも》をつれて割込んで来ました。
頭巾《ずきん》こそ被っているけれども、これは紛《まぎ》れもなく神尾主膳の微行姿《しのびすがた》であります。
「ははあ、江戸名物女軽業大一座」
神尾主膳もまたこの絵看板を打仰ぐと、
「評判でござりまする、女というので評判なのでござりまする、太夫から下座《げざ》に至るまでみんな年頃の女、それが評判で、ごらんの通り大入りを占めておりまする」
草履取《ぞうりとり》が説明を申し上げると、
「なるほど、ともかく江戸から出て来たものに違いはなかろう、見物して参ろう、跟《つ》いて来い」
木戸口に立つと、
「どうやら御重役のお微行《しのび》らしい」
木戸番が頭取《とうどり》に耳打ちをしました。
この軽業の一行は両国に出ていた一行。米友を黒ん坊に仕立てた一座。女の軽業《かるわざ》足芸《あしげい》の類《た
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