いうやつがあるか」
忠作は苦《にが》りきって、
「ありゃ夜鷹《よたか》というものだ」
「なるほど」
「何がなるほどだ、その夜鷹に捲き上げられたんだろう」
「どうも仕方がねえ、もう一ぺん行って探して来る」
「うむ、探して来い、出なけりゃ道庵さんに話して、せっかくだがお前に暇を出すから、そのつもりでしっかり探して来い」
昨晩、十両余りの金をいつどこへ落したとも知らずに落してしまったが、その晩は疲れて寝込んだから、今朝まで気がつきませんでした。いざ御主人忠作の前へ並べようとしてみるとその金が無いので、米友も色を変えてしまった、というわけで、思い当るのは昨晩の柳原へ出た奇怪な女の振舞《ふるまい》であります。その辺に少し出入りをしたものは、誰でも知っているはずの夜鷹です。それを米友はまだ夜鷹と知らないでいるのに、忠作はまた、友造が夜鷹にひっかかって捲き上げられたとばかり邪推して、金が出なければ米友を追い出すことに了簡《りょうけん》をきめているらしい。
「弱ったな」
跛足を引き引き柳原の方を差して行く。柳原へ行ってみたところで、あの女が取ったものならば、出て来るはずはないし、落したものならも
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