《あひる》のような恰好《かっこう》をして駈け出しました。女はそれきり追いもしないで、
「ホホホ、小柄《こがら》で華奢《きゃしゃ》で、そうして歩《あん》よのお上手な旦那、またいらっしゃいよ」
友造の逃げっぷりを立って見て笑っていました。息せききって逃げて来た友造、
「ばかにしやがら、女でなければ、打ちのめしてくれるんだが」
ようやくにして長者町の奉公先へ帰った友造は、御主人の居間へ行って見ましたが、どこへか出て行ったらしく、暫らく待ってみても帰る様子がないから、自分の部屋へ帰って一息ついている間に、疲れが出て、ついうとうとと寝込んでしまいました。翌朝になって、忠作の前へ呼び出された友造が、
「困ったなア」
「馬鹿」
忠作のために頭ごなしに叱られました。
「だから財布《さいふ》は、首へ掛けなくちゃならんと言っておいたじゃないか、グルグル捲《ま》きにして懐中へ突っ込んでおくから、こんなことになるんだ」
「エエと、柳原の土手だ、たしかにあの時に落したに違えねえ」
「柳原の土手でどうしたんだ」
「あの土手で女の追剥《おいはぎ》が出やがったから、そいつを追払って逃げた時」
「馬鹿、女の追剥と
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