はわたしだけのお金を持って勝手に暮してゆきたい、そうしなくちゃ、ばかばかしくて仕方がない」
 お絹は続いてこんなことを考えていました。
「今晩はどこへか出かけてやろう。それにしても困ったのはお金、いちいちあの子が勘定して封印をして、ほかの人には手もつけさせないようにしてあるんだが、ひとつ探してみてやろうか。あとで文句を言うだろう。なるほどこうして置けば、お金はズンズン利に利を産んで殖《ふ》えてゆくだろうけれど、遣《つか》えないお金では全くつまらない。よし、帰って来たら、相談をして、わたしの取るだけのものは取って別れてしまおう、わたしはその金で、一軒を立てて、お花のお師匠……もうそんなことをしてもいられない、いいかげんの相手があれば……と言って、好いたらしいのは頼みにならないし、頼みになりそうなのは碌《ろく》でもなし、どうしていいかわからない」
 お絹は忠作をうまく使って、番頭も小僧も兼ねた仕事をさせ、自分は蔭で好きなことをして面白おかしく暮そうという目算であったのが、その事業はどうやら思うようにゆくが、お絹の目算は外《はず》れ、肝腎《かんじん》の金銭の出納《すいとう》、収支の自由は忠作
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