間へ帰ってからお絹は、机に凭《もた》れてホッと息をついて、
「ほんとに厭《いや》になってしまう、あんな子供のくせに朝から晩までお金のこと、元金《もときん》がいくらで利息がいくら、それよりほかに言うことはありゃしない。あっちから来るときは賢そうな子だから、見処《みどころ》がありそうに思って、つれて来てなにかと世話をしてやろうと来て見れば、殿様は甲州|勤番《きんばん》、わたしもこれからどうして世渡りをしようかと戸惑《とまど》いをしていたところへ、どうしてあの子が聞き出して来たか、金貸しをすると儲《もう》かると言い出して、その利息勘定などを、わたしの目の前へ持って来て見せるものだから、わたしも眼から鼻へ抜けるようなあの子の賢いのに感心して、それではまあ、やってごらんと言って、それからあの子の持っていた金の塊《かたまり》と、わたしの使い残りのお金を資本《もと》にして、はじめさせてみると、調子はいいにはいいが、ああ細かくなって元金と利息のほかには眼がないようになってしまったのでは、末のことが思われる。このごろでは、コマシャクれた厭な餓鬼《がき》だ、見るのも厭になってしまった。なんとかして、わたし
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