って庭を廻りました。
米友の友造が貸金を集めに行ったあとでも、忠作はなお一生懸命に算盤《そろばん》と首っ引きをしているところへ入り込んで来たのが、丸髷《まるまげ》の町家風《ちょうかふう》の年増でありました。いつのまに変ったか、これは妻恋坂《つまこいざか》のお絹であります。
「七軒町の小間物屋さんが申しわけに来たから、そんならそれでよいと言って帰してしまいましたよ」
「帰してしまったって?」
忠作は渋面《じゅうめん》をつくって後ろを見返り、
「帰してしまっては困るじゃありませんか、あの口は十五両一分で貸してあるんですよ、今時《いまどき》、ああいう走りの金を、十五両一分で融通するなんというのは格別の計らいなんですよ、それを有難いとも思わずに、待ってくれ待ってくれで、今日で三日目だろう、いいわ、いいわで帰してもらっちゃ困りますね」
「でも、あの人は気前のいい人だから、ありさえすりゃあ返すんだろうけれども、無いから返せないのだろう、性《しょう》の知れた人だから少しぐらい待って上げたっていいだろう」
「これは驚いた、そんな了簡《りょうけん》で金貸しができるものか。今度来たら私のところへ取次い
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