ら」
 相変らず跛足《びっこ》を引きながら庭を掃いていると、
「友造、友造」
 奥の方で呼ぶ声がします。
「ばかにしてやがら、友造、友造と噛んで吐き出すように言やがる」
「友造、友造」
「自暴《やけ》になって呼んでやがる、返事をしてやらねえ」
「友造、友造」
「はははのはだ、友造がどうしたんだ、友造で悪けりゃ勝手にしろ」
「友造、友造」
「やあ、こっちへやって来るな、怒ってやがる、小餓鬼《こがき》のくせに金貸しなんぞをしやがって、生意気な野郎だから返事をしてやらねえ」
「友造、友造」
 キンキンした声で怒鳴りながら奥から飛んで来る様子。
「隠れろ、隠れろ」
 友造の米友は縁の下へそっと隠れました。
「おや、ここにもいない、友造、どこへ行ったんだ、友造」
「はははのはだ」
 米友が縁の下で舌を出すと、忠作はその上で床板《ゆかいた》を踏み鳴らします。
「友造、友造」
「はーい」
 縁の下から返事。
「縁の下にいやがる。何をしているんだ、さっきからあれほど呼んだのが聞えないのか」
「聞えませんでした」
「嘘をつくな」
「嘘じゃありませんよ」
「嘘でなけりゃ貴様は聾《つんぼ》だ、跛足《びっこ》
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