から奉公に行くんだぞ、君ちゃんは近いうち旅へ出るんだぞ、俺らはお前をつれて行くことはできねえが……そうだ、お前は君ちゃんに附いて行け、俺らの代りに君ちゃんに附いて行け」
こう言って米友の面が急に明るくなって、
「君ちゃん、君ちゃん」
「なに」
「旅へ出るにもムクはつれて行くんだろうな、ムクをつれて行っても親方は叱言《こごと》を言やしないんだろうね」
お君は頷《うなず》いて、
「ああ、それはいいんだよ、ムクにはこれから芸を仕込むなんて、親方も大へん可愛がってるから」
「それで安心した、行っておいで、行っておいで」
米友はホッと息をつきました。
三
米友が庭を掃いていると、木戸口をガラリとあけて入って来たのは十四五の少年であります。子供のくせに気取った容姿《なり》をして、小風呂敷を抱えた様子が、いかにもこまっちゃくれているが、よく見るとそれは甲州の山の中で金《きん》を探していた忠作でした。
「友造、誰も来なかったか」
「へえ、誰も参りませんよ」
「ああ、そうか」
顋《あご》をしゃくって忠作は家の中へ入ってしまうと、米友はそのあとを見送って、
「ばかにしてやが
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