たから、お関所も無事に通ることができたんだよ」
「そうだ、それからとうとう、おれを印度人に化けさせやがった。はじめの考えでは、俺《おい》らはあの道庵先生を頼って行くつもりであったが、途中で印度人に化けるようなことになっちまった」
「これからどうしようね」
「どうしようと言ったって、まあ今夜はどこか木賃《きちん》へでも泊って、ゆっくり相談するとしよう」
「あの親方が言うのにはね、君ちゃん、お前は一旦ここを出ても、気があったらまた戻っておいで、どんなにも相談に乗って上げるからと、出る時に親切に言ってくれたのよ」
「俺らにはそんなことを言わなかったが、お前にだけそんなことを言ったのかい」
「そうだよ、わたしにだけ内密《ないしょ》に言ってくれたの。江戸に居悪《いにく》ければ旅へ出た時に、まだ仕事はいくらでもあるから、どこへか落着いたら居所《いどころ》を知らせてくれと言ってくれましたよ。そうして今晩も泊るところがなければ、両国橋を渡ると向うに知合いの宿屋があるから、そこへ行って親方の名をいえばいつでも泊めてくれると、その所や宿屋の名前まで、よく教えてくれましたよ」
「はは、それでは親方は俺らには
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