じ》ってしまったんだよ。それでも聞き咎《とが》めた人は幾人もなかったからよいけれど、本当にばれた時には、それこそ小屋を壊されて、どんな目に会うか知れなかったよ」
「あの時は、ついあんなわけで、口上の言草《いいぐさ》が癪《しゃく》に触るから」
「あたりまえなら、袋叩《ふくろだた》きにされた上に小屋を抛《ほう》り出されるのだけれども、お前が槍が出来るし、それに偽《にせ》の印度人だという評判が立っては悪いから、こうして黙って追い出されたんだというから、まあ仕合せだと思っていますよ」
「うん、俺《おい》らも、もうあんなところにはいてくれといったって一日もいられやしねえ、ちょうどいい幸いだ」
「だけれどあの親方は、そんなに悪い人じゃないよ。なにしろ女の身でもって、あれだけのことを踏まえて行こうというんだから、なかなかしっかりしたところがあるねえ」
「そうだ、あの親方は、あれでなかなかいいところがあるよ」
「第一、侠気《おとこぎ》があるね。ほら、二人が三島まで来て、お金が無くなって困っていた時に、あの親方に助けられたんだろう、わたしの三味線がいいから下座《げざ》に使ってやると言って、中へ入れてくれ
前へ
次へ
全115ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング