その翌日、道庵は与八をつれて両国へ出かけました。与八の背には郁太郎《いくたろう》が温和《おとな》しく眠っています。
 道庵先生は両国へ行く途中も、例の道庵流を発揮して通りがかりの人を笑わせました。
「あそこが両国だ、大きな川があるだろう、間《あい》を流るる隅田川というのがあれだ。向うは上総《かずさ》の国で、こっちが武蔵の江戸だから、昔し両国橋と言ったものだが、今はあっちもこっちもお江戸のうちだ。どうだい、景気がいいだろう、幟《のぼり》があの通り立ってらあ、橋の向うとこっちに見世物小屋が並んでる、見物人がいつでもあの通り真黒だ、木戸番が声を嗄《か》らしていやがる。与八、うっかりあの前へ行ってポカンと立っていると巾着切《きんちゃくきり》に巾着を切られるから用心しろ、ぐずぐずしていると迷児《まいご》になるから、おれの袖をしっかり捉《つか》めえていろ、自分の足を踏まれぬように、背中の子供を押しつぶされねえように気をつけて」
 こうして二人は両国の人混《ひとご》みへ入り込んで行きました。
「先生、こりゃ何だい」
 与八はいちいち見世物の絵看板の前で立ち止まる。
「こりゃその駱駝《らくだ》の見世
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