二千人からある」なんというようなことを言い出すから穏かでなくなってしまうのです。どこから手に入れたか、この日は舶来《はくらい》の解剖図《かいぼうず》を拡げて、それと一緒に一|挺《ちょう》のナイフを弄《いじ》りながら独言《ひとりごと》を言っています。
「毛唐《けとう》は面白いものを作る、こうすれば鎌になる」
 ナイフの刃を角《かく》に折り曲げて鎌の形にし、
「それからまた、こうすれば燧《ひうち》に使える、こうして引き出せば庖丁《ほうちょう》にもなり剃刀《かみそり》にもなる」
 たあいないことを言って、ナイフをおもちゃにして解剖図を研究しているところへ、
「先生」
「何だ」
「お客でございます」
「お客? いま勉強しているところだから、大概《たいがい》のお客なら追払っちまえ」
「与八さんが来ました」
「与八が?」
「与八さんが馬を曳《ひ》いて来ました」
「与八が馬を曳いて来た? そいつは面白い、こっちへ通せ」
 与八が沢井から久しぶりで道庵先生を訪れて来ました。
「与八、お前が来たから今日は、おれも久しぶりで江戸見物をやる、どうだ、両国へでも行ってみようか」
「お伴《とも》をしましょう」

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