「どうも、おかしい、あの印度人は見たことのあるような印度人だ」
「先生は印度人にも友達があるのかね」
「どうも、あの時より肉は少し落ちているが、骨組に変りはなし、跛足《びっこ》に申し分もなし、こいつはいよいよおかしい」
道庵先生は、慈姑《くわい》頭を振り立てて印度人の恰好《かっこう》を横から見、縦から見ていましたが、
「あはははは」
突然、大きな声で笑い出しました。
時々変なことを言い出すお医者さんと思って、あたりの見物も気に留めなかったが、この時は笑い方があまり仰山《ぎょうさん》であったから、みんなが道庵の方を振向いて見ました。
「先生、何を笑ってるのだ」
与八も驚かされました。
「あはははは」
道庵はやはり大口をあいて笑います。
「何がおかしいだか」
与八は受取れぬ面《かお》。
「まず前芸と致しまして槍投げの一曲、宙天《ちゅうてん》に投げたる槍を片手に受け留める……」
口上言いが言う。
印度人が槍を取り直して、ヒューと上へ投げる。
「うまいぞ! あははは」
道庵先生が囃《はや》すと、印度人はブルブルと慄えて、落ちて来た槍を危ないところで受け留める。手足にワナワナと
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