ったお方ですから吠えてはいけません」
「ああ、その犬は、お前さんの犬であったか、昼のうちにこの先の原の道で見かけた犬。そこに怪我《けが》しているのは誰じゃ。おお、ここの堂守と途中から一緒に来た男、さてこそ何か仔細《しさい》のありそうな」
「これには長いお話がござりまする。この人たちは、わたしに向ってよくないことをしましたから、それでムクが怒ってこんな目に会わせたのでございます、お気の毒でございますけれど、こうしなければわたしが助からないのでございますから、どうかムクの罪を許して下さいまし、ムクが悪いのでございませんから」
「なんにしてもこのままにはすて置けぬ」
兵馬とお君とは、力を合せて木莵入と金公とを家の中へ担《かつ》ぎ込んで、ムクに噛まれた傷を介抱《かいほう》してやりました。
十三
兵馬とお君とは思いがけない対面でありました。お君の語るところによれば、一蓮寺の火事の時、椎《しい》の木の下に昏倒している間に、自分は誰にか助けられて見知らぬところへつれて来られたが、その助けたというのはここにいる金助で、連れて来られたのはこの堂守の家であります。
堂守はこの明
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