さないから、金助はいよいよ不平な面をします。
「いや、なかなかやるやる、お前様はよい師匠に就いて稽古をなされたな、ことに上手《うわて》のものとのみ手合せをしておいでと見えて、下手《したて》より上手へ強いお手筋じゃ。いや、頼もしうござる。ハテこの一手、これがわからぬ、いやこれはどうも」
木莵入《ずくにゅう》は頭の上へ手を置いてしまったが、大分こたえたと見えて、金公の棚下《たなおろ》しも出なくなって唸り出すと、今度は金公が首を突き出して、
「入道、少し困ったな」
「うーん」
「なるほど、定石から打ち込んだものには違ったところがあるな」
「うーん」
「入道、投げた方がおためになりそうだぜ、碁になっておらん、投げて一升買うか、そうでなければ白をお渡し申して出直すんだ」
「うーん」
やっとのことで入道が一石、千貫の石を置くような手附《てつき》。
兵馬は番町の伯父の家にいる時、伯父から手ほどきの定石を習い始め、余技とは言いながら相当に心得たものでありました。この坊主なかなか弱くはないけれど、自分に対して白を持つほどの腕ではないと見て取ったのに、三目置いているから、兵馬にとっては楽なもの、入道
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