其許《そこもと》はなかなか筋がようござるな、見込みのあるお手筋《てすじ》じゃ、そうして定石から素直《すなお》に打ち上げてゆかぬと悪い癖が出て物にならぬ。物の譬《たと》えがここにござる、金公などを御覧《ごろう》じろ、器用一辺で、あっちへ遣繰《やりく》り、こっちへ遣繰り、キュウキュウひど工面《くめん》をしながら打っている、それで年中ピーピー苦しみ通しで、おしまいの果てが投げと来るから目も当てられない。そこへゆくと下拙《げせつ》の如く定石から打ち込んだものには、悠揚として迫らぬところがある、よし勝負には負けても碁には勝つというものじゃ。ここにござる金公の如きは勝負にはむろん負け、碁においてはもとより問題にならず」
引合いに出された金公が苦《にが》い面をする。
「パチリ」
「パチリ」
「ええ、これはうまい手を打ったな、これはやられたわい、なかなか油断のならぬ手筋じゃ、金公を相手にする了簡《りょうけん》ではチトむずかしい、金公の如きを相手にしている故、下拙もつい見落しが出来て困るて。仕方がない、そこはそれ若い者に花、しかしこれはどうも金公とは違う」
一口上げに金公金公と、よい方へは引合いに出
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