する。
「どうだ金公、こいつが負けたら四つ置くか、それとも一升買うか。キュウキュウ言ったところで碁になっておらんわ、投げた方がよかろうぜ」
実際、金公は弱らせられているらしく、キュウキュウ言って盤面を見つめていたが、やがて窮余の一石をパチリと置く。
「おやおや、自暴《やけ》とおいでなすったね、自暴と気狂いほど怖《こわ》いものはないと権現様がおっしゃった。自暴もまた侮るべからず、こうして継いでおけば問題はござるまい」
「なるほど、うーん」
金公が唸《うな》り出してやがて降参してしまうと大入道大得意、カランカランと打笑う。兵馬はそれに興を催して、
「御出家、一石お願い致しましょうか」
「おやおや、お前様も碁をお打ちなさるか。それはそれは、お若いに頼もしいことじゃ。金公では下拙《げせつ》いささか喰い足りずと思うていたところ、さあ遠慮なくいらっしゃい」
「しからばこの人と同じこと、三目でお相手を致してみよう」
「よろしい、三目、さあいらっしゃい」
「パチリ」
「パチリ」
「これは感心、定石《じょうせき》を心得ておいでなさるところが感心、とかく初心のうちは、そう打っておいでになるがよろしい、
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