に、この堂守は怪しげな僧体をしているから、兵馬は変に思っていると金公が、
「さあ、どうかお入りなすっておくんなさいまし、これはわっしどもが大の仲よしで木莵入と申しまする、見たところは気味の悪い入道でございますが、附合ってみると気の置けないおひとよしの坊主でございます」
 金公は金公で、この坊主を捉《つか》まえて木莵入木莵入と言い、坊主は坊主で金公を捉まえて金公金公と呼捨てにしているところを見れば、なかなか懇意な間柄らしいが、兵馬はここで雨宿りをするつもりで中へ入って見ると、炉の中には釜無川で取れる川魚が盛んに焼かれてあるし、貧乏徳利がいくつも転がっています。
 雨はなかなかやみそうもないから、兵馬もつい勧められるままに草鞋《わらじ》を取って上へあがりました。
 そうしているうちに、坊主と金公が碁を打ちはじめました。見ていると金公もかなりに打てる、坊主はなかなか強い、金公に三目置かして打っているがまだ坊主の方がずっと強い。金助はしきりにキザな面《かお》をして例の歯の浮くような文句と一緒に石を並べて、時々キュウキュウ言わせられていると、坊主はそのたびごとに高笑いをして金公を頭ごなしにばかに
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