、自分が川柳《せんりゅう》をやることだの雑俳《ざっぱい》の自慢だのを、新しそうな言葉で歯の浮くように吹聴《ふいちょう》する。兵馬はいよいよくだらない折助だと思ったが、ただくだらないばかりではなく、兵馬の話しぶりを見ては折々ひっかけるようなことをする。これでは犬に逐われるのも無理はないと、胸に不快な思いをしながら、ともかくも竜王村へ入って来ました。
 竜王村へ入って村を横切ると釜無川《かまなしがわ》の河原へ出ます。信玄の時代に築かれたという長さ千間の一の堤防《だし》。その上には大きな並木が鬱蒼《うっそう》と茂っている。右手には高く竜王の赤岩が聳《そび》えている。金公が先に立ってその堤防の並木の中へ分けて行く時分に、さきほどから怪しかった時雨《しぐれ》の空がザーッと雨を落してきました。
 金助は、兵馬の先に走って、同じ堤防の並木の中の、とある神社の庭へ走り込んで、
「こんにちは、こんにちは」
 戸を叩いたのは三社明神の堂守《どうもり》の家。
「金公かい」
 破れ障子から面を出したのは腰衣《こしごろも》をつけた人相のよくない大入道。
「木莵入《ずくにゅう》いたか」
 ここは神社であるはずなの
前へ 次へ
全115ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング