いででござりまする」
「そりゃ訝《おか》しいぞ」
 二人は面《かお》を見合せていた時に、廊下を渡って来た人、黒の紋付を着流して腰に両刀、それで九尺柄の槍の石突《いしづき》で軽く廊下の板を突き鳴らしながら、
「珍らしいところで神尾主膳殿、拙者は山崎でござる、山崎譲、山崎譲」
 槍を杖《つ》いて来たのは机竜之助で、
「神尾殿、神尾主膳殿、珍らしいところでお目にかかる」
 早やその部屋近くまで来たから擬《まが》いの神尾主膳は、
「山崎、あの、御身が山崎譲殿に相違ないのか」
「いかにも山崎譲、先日は失礼致した、御免あれよ」
 竜之助はこう言って、槍を携えたままで彼等の部屋の中へ入ってしまいました。
「いつぞや御所望《ごしょもう》になった道具、幸い、この山の中でぶらぶら遊んでいる間に、この通り手に入れた。この上の望月という家にあった槍、拙者はこの通り眼が見えないが、天正以前の作と覚えて申し分がない、柄は竹を合せて作ったもの、賤《しず》ヶ岳《たけ》七本槍の時、あの連中が使った槍に竹の柄があった、竹を削って菊の花形に組合せて漆《うるし》を塗る、見たところでは樫《かし》の柄と少しも変らぬのだが、間違っ
前へ 次へ
全100ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング