大菩薩峠
白根山の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)最期《さいご》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|瓢《ぴょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]
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         一

 机竜之助は昨夜、お絹の口から島田虎之助の最期《さいご》を聞いた時に、
「ああ、惜しいことをした」
という一語を、思わず口の端から洩らしました。
 そうしてその晩、お絹は夜具を被《かぶ》って寝てしまったのに、竜之助は柱に凭《もた》れて夜を明かしたのであります。
 その翌朝、山駕籠《やまかご》に身を揺られて行く机竜之助。庵原《いおはら》から出て少し左へ廻りかげんに山をわけて行く。駕籠わきにはがんりき[#「がんりき」に傍点]が附添うて、少し後《おく》れてお絹の駕籠。
 山の秋は既に老いたけれども、谷の紅葉《もみじ》はまだ見られる。右へいっぱいに富士の山、頭のところに雲を被っているだけで、夜来の雨はよ
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