来てはいけない」
「それでも、あの通り槍をお持ちになって、無理にお通りでござりまする」
「ナニ、槍を持って来た?」
 二人の擬《まが》い勤番《きんばん》は、障子をあけて外を見ると、長い廊下の向うから、人が一人、闇の中を静かに歩いて来ると、そのあとから追いかけるように一人の女が雪洞《ぼんぼり》を差し出しています。
「神尾殿、神尾主膳殿」
 廊下を歩いて来る人は、二間も三間も隔たった向うから神尾の名を呼ぶ。そのくせ、廊下を歩く足どりはゆっくりしたものです。
「チェッ、来やがったな。それにしても、あの声は……」
 二人は廊下の闇を微かな雪洞《ぼんぼり》の光をたよりに山崎の様子をうかがうと、どうやら人が違うようです。
 碁盤へ印をつけた山崎はもっと太った男であった。甲府へ来た時の山崎はあんな士風《さむらいふう》ではなく、易者のような恰好《かっこう》をしていたし、その山崎の声は、もっと太くて力のある声。いま呼びかけた声は低くて沈んで病人のような声です。
「あれが山崎か」
「左様でございます」
「何だ、山崎は病人か」
「お目が御不自由で、それゆえ失礼ながらこのままとおっしゃって、槍を杖に突いて、お
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