がら神尾主膳は折助を使用して、人を陥《おとしい》れなければならなくなったとは浅ましいことです。甲府勤番に落ちたことは、どうも仕方がないけれど、折助を使用して人の内密を探り、それを種に小策を弄《ろう》することは、よくよく見下げた心になったものです。
 しかしながら、ここへ神尾主膳の仮面《めん》を被《かぶ》って来た折助の権六は大得意でありました。彼は勤番支配にでもなりすました心で今、その威権のありたけを示しているところへ、不意に水戸の人、山崎譲というものが尋ねて来たと聞いて少しく狼狽《ろうばい》しました。
「ナニ、水戸の人で、山崎なにがし?」
 眼をパチパチさせてみたが、本人の神尾主膳はその人を知っているかも知れないけれども、権六の神尾はそんな人を知らない。
「今は忙しいから、後刻面会を致す、いずれかへ無礼なきように御案内申しておけ」
「委細、承知致しました」
「水戸の山崎……お前は知っているか」
 権六は、少しく不安心になってきたものだから、後ろの席でこれも擬《まが》い勤番の木村に尋ねると、権六とは負けず劣らずの代物《しろもの》で、岡引《おかっぴき》を勤めていた男。
「お前は知らねえのか
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