も関西も鼎《かなえ》のわくような騒ぎ、四海の中《うち》が浮くか沈むかという時勢であるそうな。それにこの山里では、お嫁取りの飲み明かし歌い明かし、そぞろにその泰平《のどか》さにほほ笑まれるのであったが、その来る嫁というのが甲州八幡村と聞いて竜之助は、また思わでものことを思わねばならぬ。それは、わが身にとって悪縁の女、お浜の故郷が、やはりその八幡村であったからであります。
「そのお嫁さんを一目見たいものだな」
「それはお目にかけたいくらいの美しいお嫁様で」
竜之助は冗談のように言うと、お徳は本気で答える。
「八幡村というところには、わしの親類……でもないが知合いがある」
「ああ、そうでござんすか、それではことによると、あのお嫁さんも御存じのお方かも知れませぬ」
「いいや知るまい、私はその八幡村というところへ行ったことはないのじゃ、ただ懇意な人の口から聞いて知っているばかり」
「左様でござんすか、いずれ明日にも、お嫁様のお里帰りがあるでござんしょうから、その時ごらんになると……そのとき誰かにお聞きなすってみましたら」
「別に聞いてみたいこともないのだが、なんとなくそのお嫁様を一目見たいよう
前へ
次へ
全100ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング