何をなさいます」
竜之助は物を言わず、逃げて行く駕籠屋は追おうともせずに、がんりき[#「がんりき」に傍点]の声のする方へ向って来ますから、
「あ、危のうございます」
がんりき[#「がんりき」に傍点]も驚く、お絹も驚く。驚いて逃げるがんりき[#「がんりき」に傍点]の方へ寄って行く竜之助、ふらふらとして足許《あしもと》が定まりません。
がんりき[#「がんりき」に傍点]は、竜之助の刀を避けて、楢《なら》の木の蔭へ隠れる。白刃《しらは》を閃《ひら》めかした竜之助は、蹌踉《そうろう》として、がんりき[#「がんりき」に傍点]の隠れた楢の木の方へと歩み寄る。
「先生、御冗談じゃありません、わっしをどうしようと言うんでございます」
がんりき[#「がんりき」に傍点]は木の蔭から叫ぶ。その声をたよりに刀を振りかぶった竜之助。
「先生、眼が見えるんでございますか、わっしをお斬りなさるんですか」
がんりき[#「がんりき」に傍点]は、刀を振りかぶった竜之助の形相《ぎょうそう》を見てまた驚く。静かに歩み寄る足取りが盲目の人とは思われない。閉じた眼が、がんりき[#「がんりき」に傍点]の面《かお》に向いて輝
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