話をしてくれる?」
「焦《じ》らすものではない、早く教えてくれ」
「蔵太郎や、おじさんを焦らさないで早く教えてお上げ」
「それでは教えて上げよう、いま書いたのは月という字」
「ああ、月という字――そう言おうと思っていたところ」
「聞いてから言っても駄目。それではおじさん、戦人のお話をしておくれ」
「おじさんに戦人の話をしてもらうより、お母さんに歌を聞かしておもらい」
「お母さんに歌を?」
「お前のお母さんは歌が上手であった。話は家の中でするもの、歌はこういうところでうたうのがよい」
「それではお母さん、歌をうたって聞かせておくれ」
「母さんに歌などがうたえますことか。それはおじさんが嘘《うそ》をおっしゃるのですよ」
「嘘ではない。峠から下りて来る時、山駕籠の中でうつつに聞いていたがよい声であった。あれをひとつ、この月の晩にここで聞かしてもらいたい」
「まあお恥かしいこと、あんなのは歌でもなんでもありゃしません、魔除《まよけ》にああして声を出し歩くだけのことで」
「そうではない、土地の歌は土地の人の口から聞かねば情合《じょうあい》がない、あの、甲州出がけのという歌、あれを駕籠の中で聞いて
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