駆け出して来た子供。
「お母さん」
「蔵太郎《くらたろう》かえ」
「ああ」
月見草が咲いた中から、面《かお》を出した六歳ばかりの可愛らしい男の児。
「おじさんもいるの?」
「おじさんもここでお月見を……お前も来てあのお月様をごらん」
お徳はわが子を縁側の方へ麾《さしまね》く。
「月見草がよく咲いてるね」
と言って、子供はその花を一つ※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》る。
「あ、これ、その花を取ってはいけません、それはお前のお父さんが大好きな花なのだから大切にしなくては」
「でも、こんなにたくさん咲いているから一つぐらい」
「一つでもいけません、せっかく、月見草がお月見をしているものを、摘み取るのはかわいそうですよ」
「花が月見をする? それはおかしいね、母さん」
「ごらん、この月見草という花は、日が暮れるとこんなに咲いて、日にあたると凋《しぼ》んでしまうのだから。お月様の好きな花、そうしてお月様に好かれる花」
「坊は、こんな花よりも桜の花や、つつじの花が好きさ」
「お前のお父さんはまたこの花が好きであったのだから、お前も好きにおなり」
「それでは好きになろう、こ
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