尤《ごもっと》もでございます、なんとかして早くお帰し申すようにして上げたいと……でも当分は、おうちのつもりで御休息をなさいませ」
家の奥の方でこの時、書物を声高《こわだか》に読む子供の声がします。
「よく勉強していますな。あの子は性質《たち》のよい子じゃ、よく育ててもらいたいもの」
竜之助は、奥の間で本を読んでいる子供の声に耳を澄ましている様子です。
子供は三字経《さんじきょう》を読んでいるものらしい。
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「養うて教へざるは父のあやまち
教へて厳ならざるは師のおこたり」
[#ここで字下げ終わり]
というような文句が断続《きれぎれ》に聞えます。
「今はもう、あの子の成人するばかりが楽しみでございます。他国《よそ》へ出る時はお隣りへ預けて参りますが、それでも感心に手習や学問に精を出してくれますから。なに、こんな山家で学問なんぞをと申しますけれど、死んだ良人《つれあい》が、この子はぜひ世間に出してやりたいと申しておりましたものですから」
母もやっぱり、わが子の読書の声を嬉しがって聞《き》き惚《ほ》れています。やがて読書の声が止んで、しばらくして裏口からハタハタと
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