や鯨より大きいものだろう」
「何だい」
「このピカピカ光る物をごらん」
「はてな」
「このお椀を左右へこんなに動かすと、それ、だらだらと砂が溢《こぼ》れる。砂が溢れると、あとに残るのがこのピカピカする物。おじさん、これを何だと思う」
「なるほど」
「知らなけりゃ教えてやろう、こりゃ黄金《きん》というものだよ。黄金というものは、この世でいちばん大したものなんだ、鮪や鯨より、もっと大きなものなんだ」
「なあーるほど」
「国主大名のような豪《えら》い人でもこの黄金の前には眼が眩《くら》むんだよ、花のような美しい別嬪《べっぴん》さんでも黄金を見れば降参するんだよ。どんな者でも、この黄金の前へ出れば顔色が変るんだから、なんと大したものじゃねえか」
「なるほど、こいつは恐れ入った」
「この甲州という国は、昔から金が出る国なんだよ」
「そりゃわかった、黄金の話はまた後から聞かしてもらおう。小僧さんや、あの山はありゃ何という山だい」
「あれか、あれは土地では燧台《のろしば》と言っているが、昔はお城があったところ、今はお化《ば》けと狼が住んでいるんだ」
「お化けと狼が?」
「あの裏山へ廻ればお化けと狼が
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