ます、それから、どうかすると熊が出て参ります」
「怖いねえ」
「先生が附いているから大丈夫でございますよ」
竜之助は前の駕籠で、二人の話を耳に入れている。がんりき[#「がんりき」に傍点]もなれなれしいが、お絹もなれなれしい。二人ともになれなれしい口の利《き》き様《よう》であります。
お絹という女、誰にでもなれなれしい口の利き方をする。旗本のお部屋様として納まっていられない女。気象《きしょう》によっては、こんな男と言葉を交すのでさえも見識《けんしき》にさわるように思うのであるに、この女は、それと冗談口《じょうだんぐち》をさえ利き合って平気でいます。
がんりき[#「がんりき」に傍点]が昨夜の言い分、お絹はそれを知らないから、平気で話をしているが、たとえ冗談にもせよ、そういうことを聞いている竜之助にとっては、二人のなれなれしい話し声を不愉快の心なしに聞いているわけにはゆくまいと思われます。
「ここが峠の頂上でございます」
ようように山駕籠が徳間峠の上へ着きました。
「さあ若い衆さん、休んでくれ」
徳間峠の上で二つの駕籠が休む。がんりき[#「がんりき」に傍点]は腰に下げていた一|瓢
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