してみますから、そちらで受けて下さいまし」
岩の間に淀《よど》みもせず流れもせず、ふわりとしていたものを七兵衛が上から棒で突き流すと、兵馬の足許へ流れて寄ったのは、
「おお、たしかに人の片腕」
「なるほど、人の片腕に違いございませんな」
七兵衛はその片腕を棒の先で砂洲《さす》の上へ掻《か》き上げて、腕を一見すると、意味ありげな笑い方。
「こんなことだろうと思った」
兵馬にはその意味がよく呑込めないでいると、
「宇津木様、図星《ずぼし》でございますよ」
「図星とは?」
「この通り、御覧下さい、この腕に二筋の入墨がございます、これがさいぜんお話し申し上げた、甲州入墨でございます」
「なるほど」
「どうか、スパリとこの腕をやった切口をよく御覧なすって下さいまし、斬手がどのぐらいの奴だか、それをよく御覧なすって下さいまし」
「ははあ」
兵馬は篤《とく》とその切口を見る、手は右の二の腕から一刀に。
「よく切ってある」
「さあ、斬った奴は生きてるか、斬られた奴は死んでしまったか、これからがその詮議《せんぎ》でございますよ。どのみち、この川上の仕事に相違ございません」
「尤《もっと》もだ」
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