と浸《つ》いた板橋を渡りながら、
「この川は富士川の支流《わかれ》か知らん」
「富士川の支流ではござんすまい、駿河境の方から出て富士川へ流れ込むのでございましょう。これだけの流れでございますが、雨上りにはかえってこんなのが厄介で……」
と言いさして、板橋を半ばまで渡り来《きた》った七兵衛、そこで立ち止って、流れの少し上手《かみて》の方をじっと見る。
「宇津木様、少しお待ちなすって下さいまし」
七兵衛は、先へ行く兵馬を呼び止めて、自分はやっぱり川の少し上手の方を見ています。
「どうしました」
「どうも何だか、あすこに変なものが、あの石と石との間に挟まっておりますな」
「おお、何か白いものが……」
夕暮れのことであり、少し離れているところでしたから確《しか》とは見定め難いけれど、
「どうやら、人間の腕のように見えますが、あなた様のお眼では……」
「左様、わしが眼にもどうやら……」
「向うへ廻ってよく調べてみましょう」
一旦、板橋を渡りきって七兵衛は、岩の間を飛び越えてそこへ行って見る。
「宇津木様、この辺でございましたな」
「そこへ真直ぐに手を伸ばせば……」
「それではこの棒で突き出
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